従業員の出身地について

 

ここ数年の募集傾向として、ほとんどの日系企業が人材の出身地を制限していません。 かつては、できるだけ地元出身者を採用したいという企業の意向も強かったのですが、日系企業の慢性的人材不足や政府の推進する人材流動化の成熟に伴い、出身地に関わらず優秀な人材を確保したいという考え方が主流になってきたようです。


学歴については、日本国内の採用でも以前ほど重視されなくなってきており、これを中国に置き換えても理解し易いのですが、出身地については戸籍制度で人材の流動を制限してきた中国の慣習が根強く残っているのが現状です。


当然のことですが、人材個々の能力には出身地による大きな差異はないと言えるでしょう。但し、仕事観やものの考え方については、やはり出身地による傾向が存在しています。


出身地を制限して募集する場合、募集職種がポイントになっています。例えば、地元政府機関との交渉や手続業務が必要な職種においては、地元出身者のほうがより業務をスムーズに行えるという場合も考えられます。また、地方への出張が多く地元出身者を採用しても定着しなかった職種では、その地方の出身者を採用して定着するケースもあります。


ある日系企業では会計担当者だけが地元出身者で、その他の従業員は全て地元以外の出身者で構成されています。因みにこの企業では、日本人総経理自らが見込んだ人材だけを採用してきた結果、自然にこのような従業員構成になったそうです。(勿論、逆のケースもあり得るでしょう。)

 

一方、別の日系企業では、全従業員における地元以外の出身者の割合が1%以下で、従業員同士のコミュニケーションも標準語ではなく地元の言葉で行われているそうです。この企業で人事を担当する日本人マネージャーは、良くも悪くも社内に地元出身者が作っている独特の雰囲気があり、地元以外の出身者が溶け込み難い環境になっていると感じられています。


地元以外の出身の応募者の視点から見ると、様々な出身地の人材で構成される企業にはどの出身地の人材も溶け込み易く、地元出身者のみで構成される企業には独特の雰囲気を感じているようです。お心当たりのある方もいらっしゃると思いますが、応募者側もこの点に注意しており、面接時に既存従業員の出身地構成について質問するケースが見受けられます。

 

さらに別の日系企業では事務所移転による人事面での影響がほとんどなかったそうです。通常、事務所移転により通勤できなくなる従業員が出るものですが、この企業では従業員のほとんどが地元以外の出身で、事務所移転に伴う転居が可能だったためです。

 

ポイントは、従業員の出身地は募集職種や業務内容、自社の募集能力に応じて適用する募集条件のひとつであるという点です。地元出身者であることを募集条件とする場合には、理由や必要性についての再検討をお薦めします。

また、中国では地元出身者と地元以外の出身者では適用される社会保障制度が異なりますので、ここで発生するコスト差を利用し、より柔軟な採用活動を行っているケースも多数見受けられます。(執筆時期:2007年8月)