労働契約法のトラブルについて②
労働契約法への対応不足から発生した採用時のトラブルについて、ご紹介します。今回は「試用期間中の労働契約解除」についてのトラブル事例です。
ある日系貿易会社が業務アシスタント(Bさん)を採用しました。この会社は社内制度も整備されており、社内にも明るさと活気のある素晴らしい会社です。Bさんもこのような会社に入社することができて、本当に嬉しいとコメントしていました。Bさんの担当は日本人担当者のアシスタントとして工場との連絡や品質管理業務です。Bさんはこの業界で約10年のキャリアを持っており、日本人総経理と日本人担当者からは高い期待を寄せられていました。
ところが、試用期間終了の前日、日本人総経理から試用期間中で労働契約を解除すると宣告されました。日本人担当者がBさんに仕事を依頼しにくい(仕事を頼みにくい)雰囲気を持っているという理由でした。この理由に納得できないBさんは翌日以降も出勤しました。Bさん曰く「自分のほうが日本人担当者よりキャリアが長いのは事実、でも仕事上は私の上司なので、遠慮せずにもっと仕事を頼んで欲しい。上司が勝手に遠慮しているのに、なぜ私が辞めなければならないのか。」とのことでした。日本人総経理もBさんの言うことはもっともだと理解しており、日本人担当者の能力不足も認識されています。
試用期間中の労働契約解除について、労働契約法第21条では使用者が試用期間中に労働契約を解除する場合、労働者に理由を説明しなければならないと規定されています。また、同第39条では試用期間中に採用条件に適合しないことが証明された場合に労働契約を解除することができると記載されています。「仕事を頼みにくい雰囲気を持っている」という理由では採用条件に適合しないことが証明できず、労働契約を解除することはできないのです。
このケースでは、会社側が自主的に労働関連部門に相談し解決策を仰ぎました。明らかに会社側の落ち度であり、労働者を退職させることはできないという回答でした。会社としては他の従業員への影響もあり、一度決定したことを覆すわけにもいかず、話し合いを経て「特別経済補償金」という名目で給与の3か月分を支払い、Bさんに退職してもらいました。
この会社では労働契約法の施行前から、弁護士と相談し、万全ともいえる対応をしていたのですが、試用期間中の労働契約解除の点だけは以前の認識で対応してしまったようです。
このようなトラブルを防ぐには、採用基準を明文化し、入社時に採用者に提示しておくことが有効です。入社後も採用者に対する「注意」や「教育」は口頭だけでなくメールや書面でも通知し、試用期間中に労働契約を解除する場合の根拠を準備しておくと良いでしょう。