労働契約法のトラブルについて①
2008年以降、人事トラブルが急増しています。企業が「労働契約法」に対応できていないことが主な原因となっていると考えられます。今回は「労働契約を締結していなかった」ことが原因で発生したトラブルの事例を紹介します。
ある日系貿易会社が業務担当者(Aさん)を採用しました。勤務開始後も会社側が労働契約を締結する様子がないため、Aさんは人事担当者(中国人)に早期に労働契約書を締結したいという希望をメールで伝えていました。
人事担当者からは「近日中に締結するからもう少し待つように」という回答があったそうです。Aさんは人事担当者の言葉を信じ、労働契約未締結のままで勤務を続けましたが、入社後1ヶ月を経ても労働契約を締結しようとしない会社に対し不信感を抱くようになりました。
2ヶ月間の試用期間が終了する間際になり、Aさんから人事担当者に退職の申し入れと労働関連部門への相談依頼がありました。日本人総経理は、この時点で初めてAさんとの労働契約が未締結であることを知り、Aさんに対し謝罪と慰留を試みましたが、Aさんを説得することはできませんでした。
労働契約書の締結について、労働契約法第10条では労働者使用日より1ヶ月以内に書面による労働契約を締結しなければならないことが規定されています。また、同82条には労働者使用開始日より1ヶ月を越え、1年以内に労働契約を締結しない場合には労働者に毎月2倍の賃金を支払わなければならないとされています。
因みに、この日本人総経理は試用期間の短縮についてはご存知でしたが、入社1ヶ月以内に労働契約を締結しなければならないことについては知らなかったそうです。
最終的にAさんから労働関連部門への相談(通報)は行ないませんでしたが、この会社では経済補償金としてAさんに給与の3か月分を支払いました。この会社には労働契約締結以外にも、時間外賃金に関する問題があるため、労働関連部門への通報は絶対に避けたかったようです。
表面的には入社後も労働契約を締結しなかったことが、会社への不信感と退職を招く原因となってしまったケースですが、根本的には企業のコンプライアンス意識が希薄であることが問題だと考えられます。既に企業によっては勤務開始日前日までに労働契約を締結しているケースもあります。
また、締結当日ではなく、事前に労働契約を採用者に渡し、勤務開始日に締結する企業もあります。労働契約締結に関するトラブルを防ぐためにも「遅くとも」勤務開始当日には労働契約が締結できる採用準備が必要でしょう。
(執筆時期:2008年5月)